構想から実に２１年の歳月を費やして製作された異色のドキュメンタリー。フランスアルプス山脈に建つこの修道院は厳しい戒律で知られる男子修道院。撮影申請から１６年後に許可がおりました。修道院との「音楽、ナレーション、照明は無し、入れるのは監督のみ」という約束に従い、ただ一人修道士たちと暮らしながら撮影を敢行。その結果、映画は修道院そのものとなり、観客はこの映画を通して修道士の疑似体験ができます。この映画にはテクノロジーの進歩で道を見失った現代社会に対する批判と、物質文明を原点から見直そうという思いもこめられています。この映画に出逢ってから日本公開までに８年かかりましたが、今こそ公開にふさわしい時だったと実感しています。

“声”だけの相手と恋はできるのか？ 本作のヒロイン、サマンサは声だけの人工知能。主人公は姿のないサマンサと「会話」だけで関係を深めていきます。「会話」で喜び、悲しみ、「会話」で傷つき、傷つけられ、「会話」で仲直りする。人が人と理解し合うために一番大事なコミュニケーションは「会話」だということを思い知らされます。大切な人に思いをうまく伝えられなかったり、逆に言葉はなくても伝わったり、本作で描かれるのはそんなありふれた恋愛模様です。姿が見えず“声”だけだからこそ、より鮮明にその“声”が耳に届き、気持ちを感じることができます。やがて「会話」で育んできたふたりの恋は意外な展開を迎えます。この恋の結末をぜひ劇場でお確かめください。